電子のスピン磁気モーメントが整列している磁性体はいろいろな応用がなされています。特に、スピンが平行に整列している強磁性体は工業用磁石や磁気メモリなどで広く活用されています。しかし、近年の研究によって明らかになったことは、スピンが特別な配列を示したり、結晶構造が特別な対称性を有していたりすると、より非自明な現象や高度な機能を発現する場合があるということです。例えば、スピンが面内で回転するようならせん磁気構造を有している場合には電気双極子が整列した強誘電体となります。このような磁性誘起の強誘電体は、その強い電気と磁気の結合により新奇な電磁気応答や光学応答を示します。また、スピンが渦状に配列したスキルミオンと呼ばれる磁気構造では、トポロジーの効果により電子が実効的な磁場を感じ自発的なホール効果を起こします。本グループでは、このように磁性体における特殊な磁気構造や結晶構造によって生み出される機能や、そのような機能を発現する物質を調べています。
近年は、特に以下のトピックを重要視して研究しております
元来、物性物理の研究はバルク単結晶の精密な測定を基本としてきましたが、近年では薄膜デバイス化されて初めて行うことが出来る物性、例えば、スピン流輸送や電流非線形効果、電磁波の非一様な励起応答など、に関する物性物理研究も関心がもたれてきました。薄膜単結晶を得るためには基板との整合などの条件を整える必要がありすべての物質で可能なわけではありません。我々は、バルク単結晶を集束イオンビームによって微細化する、もしくは単結晶表面に微細な電極パターンを作製するなどの手法で、同様な物性を開拓しています。
[1] N. Jiang, Y. Nii, H. Arisawa, E. Saitoh, Y. Onose, Nature Commun. 11, 1601 (2020).
[2] R. Sasaki, Y. Nii, and Y. Onose, Phys. Rev. B 99, 014418 (2019).
熱流は電子のみならずフォノンやマグノンといった電気的に中性な素励起によっても運ばれます。我々は、熱輸送現象を精密に測定することによってマグノンやフォノンに関係する新奇な応答を明らかにすることを目指しています。その一例がマグノンのホール効果(上図)です。マグノンがトポロジカル位相によってホール効果を起こす現象を熱流の測定によって観測することが出来ます。
[1] Y. Hirokane, Y. Nii, Y. Tomioka, Y. Onose, Phys. Rev. B 99, 134419 (2019).
[2] Y. Onose, T. Ideue, H. Katsura, Y. Shiomi, N. Nagaosa, and Y. Tokura, Science 329, 297 (2010).
[1] R. Sasaki, Y. Nii, Y. Iguchi, Y. Onose, Phys. Rev. B 95, 020407(R) (2017).
[2] Y. Iguchi, S. Uemura, K. Ueno, Y. Onose, Phys. Rev. B 92, 184419 (2015).